Saturday, November 14, 2009

D言語、行為、選択/13 選択という帰路

 人生は予定通りにはゆかない。予定通りにいっていたとしても、やむにやまれぬ突如予定外の不測の事態が入り込んだり、あるいはそのように予定通りに行くこと自体に疑問を呈して全然別種の行動をとったりもするのである。一流大学を出て一流の会社に勤めていた人が飲食店を出して経営したり、一流のビジネスマンの経営者が画家になったり、画家を目指していた人が役者になったり、版画家が小説を書いたりドラマに出たり、ロック歌手で鳴らした人が他国の芸術大学の音楽教授に呼ばれたり、経済学者が大臣や政治家になったり、大手証券会社の重役がホームレスになったり、そうなったおかげで妻と娘に出てゆかれて娘を探す為に娘の好きだったロック歌手になったり、人生は何があるかわからないし、何をやることになるかわからない。そこで選択とは一生のこともあるけれど、その選択を再び変更することもままあるのである。すると人生はある意味では選択変更、予定変更と躊躇と逡巡の繰り返しである、とさえ言いえる。順調に身体的健康を育んでいる人がある日突如不測の大事故に見舞われ、半身不随になったり、大脳の半分が損傷したり、それでもあらゆる身体システムの可塑性を利用して見事に日常生活に生き甲斐を見出したり、所謂そういった殆んど常に押し寄せる不測の事態に対する反応と対処が身体的にも精神的にも大きな部分を占めるのが人生である、と言える。その際最初考えた通りには何事も巧くは運ばないということを認知し、そのやり方がまずかったのではないか、と最初の選択を修正したり、方向転換したりというのが我々の人生の最も重要な行為である。そこで我々は疑問を抱き、真実とされるものに対して懐疑を抱く。また巧く行き過ぎてきることにも逆に恐怖を感じ、想像だにしなかった別の回り道や茨の道を敢えて非難覚悟で挑んだり、そういうことさえ辞さないのが人間である。躊躇と逡巡、隠蔽と偽装という二つの表面上は全く積極的で肯定的ではない、寧ろネガティヴであり、消極的なる選択ならざる選択において実際は生のメカニズムの多くが隠されている、と思われる。そしてそこには認知能力や先験的弁証的思考能力、理解能力、性悪的性向への学習が大きく関与している
 さてここで再び留意しておかなければいけない重要なことがある。それは我々が人生の岐路に立たされた転機時には、それがいかに無謀なる方向転換的な決断であろうとも実現、成功可能性のないものを選択しはしない、ということである。例えば私のように幼い頃から運動神経には殆んど自信のなかった人間は間違っても、その人がまだ若い方向転換の効く十七歳位の年齢であっても決して野球選手になろうなどとは考えもしないということである。それは例えて言えばネクタイの柄を選ぶ時自分の嫌いなタイプの柄は決して選ばないようなものである。幼い頃から手先が器用でなかった人間が突如大工職とかを目指すということは余程のモティヴェーションが通常要求されるし、何らかの大きな出会いが必要である。つまり免疫システムにおいて、自己のHLAを認識、識別できないような細胞は容赦なく切り捨てられるように、選択に如何なる逡巡も見せない、無条件なものもある、ということである。それらの選択的行動も恐らく予めDNAレヴェルから決定されているのであろう。そしてそれは一方で一概には初見で判断できない多くのプロブレムもあり、その際には多くの遺伝子、細胞、ホルモン、弁証的理解力、経験論的認知能力などが総動員されて決定しているということである。愛する人を形容する時「あそこにいる人が私の最愛の人です。」という言説は概念論的には「私の憎む、嫌いな、そう好きでもない」という数多くの選択肢を脳内で予め認識論的意味規範として備えて(この場合は迷わず愛するという形容を選んでいるわけだが)いるということは事実である。それは必要のない免疫細胞が必要不可欠の細胞と同時に用意され、それらはまさに抹殺されるためにのみ存在するように、ではそのような存在は初めから必要ないのではないか、と思われるかも知れないが、やはり全体的なシステム維持においては、手続き上必要であるように、我々はやはり選択されずに終わる数多くの一見無駄とさえ言い得るような可能性さえ用意して生きている、それが進化上の不可避的事実(私が嫌いなタイプのネクタイであっても、店には置いてなければならない。)として、それを受け入れて生きること、そういう手続きにおいてのみ行為の選択もまた意味を持つということなのである。大脳では無条件的選択も躊躇と逡巡の末の選択であろうとも等しく無数の排除される選択肢をも常に用意している、ということである。そして選択とはどんなに無謀と傍から思われようとも、選択する本人からすれば最も実現可能性のある選択である、ということである。

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