Friday, October 9, 2009

B名詞と動詞 5 旅行の意味と概念

 我々庶民にとってバス旅行ほどリーゾナブルな娯楽はない。だがそれは旅行会社が提携した民宿や土産物屋での買い物に重点を置くか、バス路線における車窓を楽しむかは個人個人の自由だが、少なくとも形として記念のものを残すことよりも、より頻繁に移り行く車窓の現在性に目に焼き付けるべく多くの素材が横たわっている。目に安らぎを与えることに勝る旅行の楽しさはない。それは動詞的な行為である。土産物は、旅行へ行ったということ、そういう行為の証明ではあるかも知れないが、名詞的な行為である。そこここの土地の名物という概念、それに対し、その時その時の車窓の、自由時間の旅先での土産物屋から離れた土地へ足で探索した時に目に焼き付けるべく情景、再現前化を促すような脈動がそこここに宿っている。私は旅には形式よりも内容を重視する傾向がある。
 土産物の名詞性は明らかに旅行の概念、車窓を眺めることの動詞性は明らかに旅行の意味が内包されており、我々は「概念に対する意味からの仮託」をも社会機能維持と運営において止むを得ず概念を優先しがちだが、間違っても概念への仮託が意味を喪失させつつ、概念の絶対化を認め概念単一のコミュニケーションや日々の行為へと加担することとなり代わり、それを唯一命題の如く考えて生の時間を浪費してはいけない。我々は動詞の中に宿る追体験性とそれを駆使した再現前化の意味蘇生の中から生を動きと具体的様相を伴ったものとして現在進行形の中(今すべき行為)から未来を見出してゆかねばならない。
 旅は道程にこそ醍醐味があり、我々はそこに目的性(何のために旅をするのかという)よりも、そのこと自体を楽しむという心の余裕を持ちたい、と願う。土産物に類する旅の証拠よりも、旅の行程そのものに内在する動的な体験、動詞に転換出来るような現前の連続こそ我々が真に求めるものである。

No comments:

Post a Comment